〜お国柄いろいろ〜

 

各国人説得術

  「火事だーッ! みんな 海に飛び込めーッ!!」
  集会のメインメッセンジャーが、役者顔負けのリアルな大声で叫ぶ。次の話の展開に聴衆の目と耳は、語り手の一挙手一投足に集中した。話の場面は、ある豪華客船上。太平洋のど真ん中。最悪の大火災。沈没は時間の問題。
  「さて、皆さん、この一大事に、もし皆さんが客船の乗組員で、乗客に海に飛び込んでもらうとしたら、個性豊かな各国の人たちに対して、いったいどのような言い方で説明、また説得しますか?」 
  会場全員がこのユーモアに富んだ説教者の口から出る次なる回答を予測してか、はやくも笑いの波紋が広がっている。
  「イギリス人には・・・紳士なら飛び込め!」 説教者が高齢にも関わらず、実際に舞台からヒラリ!と飛び降りてみせた・・・。会場の笑いに火がついた。再び大急ぎで舞台に駆け上がる。
  「アメリカ人には・・・保険がかかっているぞ、安心して飛び込め!」またヒラリ、そして舞台へ。
  「ドイツ人には・・・権威ある船長の命令だ! 飛び込め!」ヒラリ、戻って、
  「イタリア人には・・・飛び込むな!」・・・ヒラリ・・・爆笑。
  「では、日本人には、・・・みなさんも飛び込んでいらっしゃいます。さあ、飛び込みましょう!」・・・ヒラリ・・・これまた拍手つきの大爆笑であった。 

じゃあ、カナダ人は?

  この話の場合、もしも乗客がカナダ人だったら、何と言って説得したほうが効果的か、いろいろと思いを巡らしたが、なかなか特徴づける言葉がなかなか思い浮かばない。でも、敢えてセリフを創作するならば、自然環境を大切にするお国柄だけに、「火事で服を焦がして大気汚染に貢献したくなかったら、飛び込め!」・・・ん、何かあまりパッとしないなぁ、なんて考えていたら、“お国柄”で思い出したあるゲストの顔が浮かんできた。

イギリス人様、これが日本文化だぁ!

  日本帰国中に、老イギリス紳士(ジャック、82歳)と彼の娘さんにホームステイしていただいたことがあった。日本文化に直接触れたいということなので、受け入れ側としてもありのままの姿を見ていただくことになった。
  「Good morning!」朝、フトンから目覚めたジャックがシエークスピア劇の主人公のような本格挨拶で一日の始まりを告げてきた。何と、いつの間に着替えたのか、彼はネクタイにビシッとしたスーツ姿である。英国女王に謁見直前の紳士そのもの・・・気品が漂う・・・。対照的に私は、乱心した殿様のような起床直後の髪型とTシャツ姿。『えぇーい、ありのままの日本だぁ! 何よりも朝はリラックスね!』と自分に言い聞かせ、妻の用意した朝食の配膳を手伝う。我が家の朝は日本食ではなく、いつもシンプルな洋風なので何も説明は要らないと思っていた。
  紳士ジャックの落ち着いた目が焦点を合わせたその先には、大皿の上にゴローンと転がってかろうじて止まっているゆで卵があった。『ははーん、これ、どうやって食べるか迷ってるんでしょ !! 』と思いつつ、カナダのあるご家庭でご馳走になったとき使われたエッグスタンド(たまご立て)のことを思い出していた。
  そのご家庭では、ゆで卵をあらかじめエッグスタンドに立てて置いて、それから、スプーンで卵の上部を“上品に”叩き、殻が壊れた上部から少しずつスプーンでいただいてゆくという方法をとっていた。まるで中世ヨーロッパの宮中にでも来ているかのような優雅なスタイルに、すっかり気を良くした私は、街中をさんざん探し回ってやっとの思いでエッグスタンドを手に入れ、早速再現してみた。しかし、日常の喧騒とテーブルの狭さ、何よりも庶民生活が沁み込んでしまっている自分自身が、宮中の優雅さには付いて行けず、その小道具もいつの間にか食器棚の隅へと追いやられてしまっていた。
  そういう顛末記を思い出しながら、『ここは、やはり、「日本庶民のありのまま」を是非お見せしなくちゃ! 』と心の中で掛け声をかけ、「Look at me! 」と真面目顔で注目を集め、皿の上のゆで卵を片手で無造作につかみ、一気に自分のひたいに突進させた。
  「パシーッ!」
  渇いた音が、紳士を招いて荘厳なはずの我が家の朝食会場に響き渡った。直後、食卓から落ちるフォークの音が爆笑の口火を切った。フォークの落とし主は、しばらくは驚愕の表情を隠せなかったジャックだった。     


ご参考までの聖書の言葉
 
「見よ。兄弟たちが一つになって共に住むことは、なんという幸せ、なんという楽しさであろう。」 
(詩篇133篇1節)

 


 

 一覧  前へ 次へ