真夜中の訪問者」
 
 「ドンドンドン」深夜2時、まさに泣く子も黙ってしまう丑三つ時、ドアを今にも蹴破りそうなノック。忘れもしないその日、私達夫婦はハワイで行なわれている会議に参加すべく、現地のホテルで心地良い眠りについていた。夢の途中か!?と思うが、耳をつんざくようなドアを叩く音がはっきりと、聞こえてきた。

 寝ぼけたまま、「ふぁ〜い」と気の抜けたような返事をしつつ、ドアに近寄ろうとした。ドアまでの距離がいやに遠い。『あっ、そうだ、ここは外国だッ。しかも、アメリカっ。こんな深夜に、しかもあの乱暴さ、絶対に押し入り強盗だ!』確信とともに、足に震えが来る。我が妻は状況が飲み込めたのか、ベッドの中で震えている。

 (『としのカナダ生活便り』をご愛読の皆様に!!

 彼女は決して強すぎる人でも恐い人でも、ありません。ごく普通の、か弱い女性なのであります。著者の描写表現に誤解を生じるところが多々ありましたことを、紙面を通してお詫び申し上げます。フーッ)

 なおも激しく深夜のホテル中に響き渡るほどの豪快ノック。ドアに近づこうとする私の脳裏に、映画のワンシーンが(私、自他ともに認める映画オタク)、ドア越しにズドーンと撃ちぬかれる壮絶なひとコマ。アメリカではあり得る。サッとドアの横に身を隠す。カッコイイ・・という余裕なんかさらさらない。そこで、「だれだっ」と叫ぼうとするが、ここはアメリカ、英語の国。 ドンドン!「オープン ザ ドォー」

 『やっぱり外人だ、発音がいいっ。』『落ち着けっ!としろう!おまえ牧師だろうが、神がついとる!』自分に言い聞かせつつ、こんな時どう言うんだろう。相手が判らない時は確か、ITを使うんだったかな、文法中心の日本の英語教育に物申したいけれど、今は、緊急時、言った。「Who is it?」

 「・・・・・」反応が無い。こちら緊張の極限状況のせいか、声が2オクターブくらい高くなっていて聞こえにくかったらしい。再挑戦、今度は腹の底から。「Who is it?」

 相手「Open the door!」と、凄みのある声。対抗して私はさらに低い声で、「No!」。相手「Why?」。

 私『おっ、質問文か、この場合は確か、Becauseで応答だったな』(状況はパニックなのに、受験地獄を通過した者の持つ落ち着きなのか!? 試験問題に対する落ち着きはたいしたもんだ! しかしながら、ピンチでは役に立たないことがその時判った)、後の文が出てこない。

 「Why?」と、もっと恐い声。

 その質問ンに対し、なんと、「ビ、Because, We are Japanese.」と、のたまった私。それに対し、「Oh, アイムソーリー」と、告げられる相手。予想外の言葉に対し、とっさに出た私の言葉「ユーアーウエルカム!!」。

 今思えば、お隣さんの部屋違いだったと思うが、我々夫婦にしてみれば、この真夜中の訪問者に命の縮む思い出を作ってもらったことになる。

 夜、しかも、真夜中にそんなお客様は、ごめんこうむりたい。朝まで私達夫婦の目は夜空に輝くお星様状態で、パチパチといつまでも休むことはなかった。

 ところで、私たちの歩みの中にも山あり谷あり、そしてまた谷あり、の連続、まさに夜の連続かと思われるようなことがある。このまま、あの明るい朝は来ないんではなかろうか、と不安で一杯になる時もある。そんな、暗い状況に、良い知らせを持って来てくれる深夜の訪問者がいてくれたらどんなに慰めになるだろうか。
 

 今、クリスマスシーズン真っ最中。
実は、このクリスマス、3世紀頃のローマ人が、冬至に農業のお祭りを行なっていて、この日から、長い夜の闇に打ち勝って、太陽の光の時間が長くなって行くことにちなんで12月25日と制定されたいきさつがある。聖書のクリスマスの舞台も、すべて夜。

不安、罪、そして、避けることのできない死という「夜」、この真っ只中によい知らせ《福音》を持って、「ドンドンドン」とではなく、幼子のかたちをとって来てくださった、まさに真夜中の訪問者。人類の避けることのできない「夜」に勝利し、みごとな「朝」を提供してくださる。

 確かに人間の限られた頭では理解できない「夜」、そして、へんてこな訪問者が多くあることは事実。しかし、奇跡的なことも盛りだくさん。人が変わることがその筆頭。

 心に残る一人の方をご紹介したい。

 まばたきの詩人、水野源三さん。源三さんは、9歳のときに脳性麻痺のために半身不随、また、ことばの自由も失ってしまった。苦しみの、まさに夜のどん底で、クリスマスの主人公なるお方を信じ、洗礼を受けた。そして、18歳のときから詩作を始めた。どのようにして詩を書いたのか? お母さんが50音図を使い、源三さんのまばたきによって、一つひとつのことばをひろっていった。

『救いの御子の誕生を』(源三さんの詩)

一度も高らかに クリスマスを喜ぶ賛美歌を歌ったことがない
一度も声を出して クリスマスを祝うあいさつをしたことがない
一度もカードに メリークリスマスを書いたことがない
だけどだけど 雪と風がたたく部屋で 心の中で歌い、
自分自身にあいさつをし まぶたのうらに書き
救いの御子の誕生を 御神に感謝し 喜び祝う
メリークリスマス

 環境がどうあろうと、境遇がどうあろうと、明日(明るい将来の日と書くのか!と今、気付いた)の光を信じて生きる者でありたい。

 来年は、イエス・キリストの誕生2000年目にあたる記念すべき年。世界のいたる所で、天使たちもびっくりするような盛大なお祭りも用意されているようだが、この大自然の中、聖書の中の博士たちや、貧しい羊飼いが見たであろう星空を見上げながら、「メリークリスマス!& ウエルカム」と、気さくで、やさしい真夜中の訪問者を歓迎していただきたい。

 みなさん、本当に、Merry Christmas!and a Happy New Year!

 

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