今は懐かし、タバコ騒動!」
 
 「見て、あの人達とっても寒そう!」妻の声にレストランの外を見ると、雪の降る外庭で寒さをものともせず、紫煙を楽しんでいる人達がいた。

 そう言えば、カナダ生活1年で気付いてきた事の一つは、禁煙についてかなり厳しい基準があることだった。

 日本には当たり前のように設置してある自動販売機も、大きな看板も全く無い。カナダの街をドライブしていてとても心が落ち着くのは、このことも影響していたと思った。というのは、日本にいた時は、看板や自販機が視覚に入るや、必ず思い起こさせられる「騒動」が昨日のことのようにリアルに再現され、心に平安をなくすのが常であったからである。

 その「騒動」は、日本で会社勤めをしていた頃に発生した。上司から呼び出しがあった。「きみ、周りの同僚ときみとの違いわかるかね。」との上司の質問に「???」の私。「お客との話の《間》のとり方なんだよ。余裕が無いように見える。きみの周りの先輩達は、それをタバコを使ってうまく《間》をとっているね。」と言われた。確かに同僚のすべてがヘビースモーカー。上司曰く、「そこで、ひとつ提案だけど・・・」と言って、勧められてしまった。

 根がまじめなA型のToshiさん。残業の帰りに、極度の緊張状況の中、あたりをうかがうようにして自販機でブツを購入した。あとは練習、訓練のみ。難関がある、それは妻への説得。結婚の時、「ぼくぁ、クリスチャンだから、神様から預かったこの体を清く保つためにタバコはやらないんだぁ。」とキラキラと目を輝かせて誓ったいきさつがある。

「でも、練習だけでもやらねば、よし、決行は明日、妻が買い物に行った時。」

 その日が来た。「いってらっしゃーい。」妻は予定通り買い物へ。アパートの階段を降りて行ったことを確かめ、「仕事のためやぁー」と自己弁護しつつ、100円ライターを点火する。もうひとりの自分が、「フリョー!フリョー」と罵声をはきかけるのを無視しつつ、火の点いたタバコを口に持ってゆき、飲み込む。「グァッホン、ゲホゲホ」この世とも思えぬほどの苦しみ。でも、本当の試練劇は既に始まっていたのであった。

 買い物に行こうとしていた妻が、店のカードを忘れて、今や、階段を上ろうとしていた。その時、彼女の目に、自宅の窓越しに明らかにタバコをくわえている男性のシルエットが飛び込んできた。咄嗟に「うちの主人はタバコは吸わない、あれは、一体誰?」

パニックした彼女の脳裏に先月、近所で起きた未解決の強盗事件が浮かぶ。彼女はUターンして、近所の婦人たちとそのご主人を助っ人として緊急召集。屈強の男性が目標のドアを思いきり開ける、そして、一喝「だれだっ!」。

 その時の私、きっと、落っこちた心臓をあわてて元に戻そうとしていた。「穴があったら入りたい」を絵に描いたような「騒動」は、近所中を駆け巡って鎮火するのに、また夫婦の会話を再開するのに、かなりの時間を要したのは言うまでもありません。

 こんな「騒動」を思い出させてくれないカナダは、だから大好きです。

・・・ 聖書の中の気になる一言 ・・・

 「潔白な人の道は、その正しさによって平らにされ、悪者は、その悪事によって倒れる。」
(旧約聖書 箴言11:5)

 

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