ジョークはビタミン I(アイ)」
 右側通行にも慣れてきて、苦手な交通ルールもマスターしてきたある雪の降りしきる夜。そこは正真正銘、あちらから入って来てはならない一方通行の住宅街の細い道。方向感覚については外科手術が必要なくらい粗悪な私でも、ルールだけは守る(スピード違反は別・・・。既に罪は支払い済)堅い性格の私。

 何とその日、来てはならないはずの向こうから大きな車がこちらに向かってくるではないか。「ここは確かに一方通行!私はカナダの州交通法規に則って運転中。絶対に悪くない。」自然発生的に寝静まっていたはずの闘争本能アドレナリンが起床号令を下す。職業も忘れて(ちなみにボクシさん)カッカ、カッカとしてくる。

 放送禁止用語が苦も無く噴出してくる。しかし、ここはカナダ、英語圏の世界。「You are cr○○○!」なんて言ってしまったら鉛のお土産をいただきかねない。と、相手のヘッドランプがフッと消えた。「おっ、前進せよ!という合図か? こんな狭い道を?」と思いつつも相手にぶつからないように、細心の注意を払いながら、ノロノロと前進させ始めた。

 曇ったウインドウ越しに相手の顔がぼんやりと見えてきた。思わず「素直に従がってて良かった〜。」と安堵のため息が出た。相手はグリズリーのような巨体。ヒゲで覆われた顔がこっちを観察している。そのグリズリーの車のウインドウがウィーンと開いた。寒気が全身を襲う。瞬間、カナダに来た当初の決意事項が頭をかすめる。

 「この国では、言うべき時に言うべきことを勇気を持ってはっきりと言おう。」

 「よしっ!」こちらもガーとウインドウを開け始める。その途端、グリズリーが大声で言った。

 「あんたの運転はすごい!!天才。A級ライセンス!本当に本当にアリガト。」

 英語だったが、多分こんなような意味だったかと思う。満面の笑みから発せられた言葉はイヤミでなく、確かに感謝の言葉であった。お調子者の私。“You are welcome! Have a great day!”と顔面をやや引きつらせながらの応答。緊張の後のさわやかな一瞬であった。討ち入り前の浪士の如く、血気盛んに集合していたアドレナリンも、このグリズリーのジョークで退散してしまって、とてもすがすがしい温かい気持ちを持って、家に向かったのは言うまでも無い。

 病院などでよくジョークを言う患者は回復が早いと言われるが、いつもこのセンスを身に付けていたいと思う貴重極まりない体験であった。

 <参考になる聖書のことば>
「陽気な心は健康を良くし、陰気な心は骨を枯らす。」(箴言 17章22節)

[英語訳] “A merry heart does good, like medicine, But a broken spirit dries the bones.”(Proverbs 17;22)

 

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