「壁に耳あり、ご用心!」
 
 久しぶりの夫婦での里帰り。時間の流れのゆっくりさはカナダと共通するものがあるが、何かが違う。言葉は勿論。本当に懐かしい鹿児島の方言、それが心地よく耳に飛び込んで来る。
 また、子供の頃から見慣れてきた太い樹とその深緑。海がキラキラと陽光を反射して
 「この海のカナタにはカナダかな。」
なんて、奥様無反応の洒落を、めげずに連発しつつ山道を進む。降り注いでくるような複数のウグイスの美しい鳴き声。どの道を通っても、自然の映像と音の懐かしき金太郎飴現象。
 ここは、我が奥様の実家。私も鹿児島出身だが、彼女はもう少し、カントリー風なところ。率直に表現すると、もっと田舎のところ。

 よく歩いた後は本当によく眠った。懐かしさの布団にくるまって、遠くから聞こえてくる鶏の声に平和を覚える。と、その時、耳をつんざくようなけたたましいサイレンの音。
 「な、なんだ?」
 私の洒落では笑わなかった奥様が、私の狼狽振りが心底受けてしまったらしく、笑いを必死にこらえながら、
 「近所の消防署の朝6時の知らせよ!」
それにしても、あの音は尋常ではなかったと思いつつ、先ほどの大慌て振りを布団の中で取り繕うとしていると、今度は
 「キンコンカンコン!おっはようございます!町内放送です!皆さん、ご機嫌いかがですか?!」
と、家のスピーカーを通して、これまた大きな声。
 「ご機嫌、悪いっ!」
と言って、この騒々しい田舎の早朝に抗議してしまった。
またまた笑っている奥様が聞いてきた。
 「この町内放送、何か思い出さない?」

 時は、十数年も前、奥様は初めてのお産で帰郷。私は名古屋で単身生活。新婚一年も経っていない。寂しいったらない。堰を切ったように想いが電話に殺到する。夫婦だけの極秘会話。思い出すだけでも顔まっ赤。電話を切った後、数分もしないうちに、奥様から電話。
 「今の会話、近所中にバレバレよ。」
 「ど、どうして?」
 「私たちの電話の前に、町内会長の父が放送していて、スイッチを切るのを忘れて、それでマイクの至近距離でしゃべった私たちの会話、この町中に流されちゃったの!さっき、近所の人がうちに飛び込んできて、それで、スイッチを切ったけど、あなたにサヨナラを言った後だったの。ごめんね。」
 「あのねぇ。ご、ごめんで…。」
『後の祭』を絵に描いたような出来事。

 その後、近所を歩く彼女に、道行く人が
 「仲が良かことで、良かネェ!!」
と声かけられることしきりだったそうな。

<聖書の中の参考になる一言>

「 自分の口と舌とを守る者は、自分自信を守って苦しみに合わない。」 (箴言21章23節)

“If you want to stay out of trouble, be careful what you say.” Proverbs 21: 23

 
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