「平和を産むシャッターチャンス
 
 

 世界のどこかでいろんなことが起こっても、いつもと全く変わらないように、この大地は新しい息吹を生じ、息を呑むような美しい大パノラマを提供し、訪れる人々に安らぎと憩いと感動を与えてくれる。そこには、数え切れないほどのシャッターチャンスが生まれる。
 また、大自然ばかりではなく、そこに集っている人々の心の内からも想い出を彩ってくれる素晴らしいシャッターチャンスが提供される。

 その忘れもしないさわやかなシャッターチャンスは、透き通るような晴天のある日の早朝に訪れた。Banffの早朝の湖は、朝日を浴びながら優雅にその衣の色を変えていった。その感動を胸に抱きながら、早朝開店のファーストフード店に入った。店のBGMとは別に映画「ティーファニィーで朝食を」の主題歌が浮かんできて、主人公に完全に成りきってしまうこの軟弱な癖は治りそうも無い。
 3年前には店員の言葉が聞き取れず、すべて「Yes.」と応答し、目の前に出された超Bigサイズを目が点になりながら懸命にいただいた経験があったが、最近は聞き分けられるようになった。「Yeah!」とか、「No Thank you.」と、カッコ良くこなしたまでは台本通り!朝食を載せたトレイを手に取り、目指す席へ向かった。突然、意思とは反対にトレイ上のコーラがまるで獲物めがけて跳びかかる鷲のように、まど際のカウンター目指して、思いっきりブチまけられた。世界中の視線が自分に集約したように感じ、息あるものすべての動きが止まったように思えた。

 「ここで、どう反応すべきか…?!」
 日本だったら苦笑い?だけど、ここは異国カナダ…そうだ!素直に悔しがろう!コミックブックで覚えた放送禁止用語を口に出し、思いっきり悔しさを表現した。
 その時だった。若いカナディアンのカップルが笑顔で「Oh !Oh!」と言いながら、店から大量のナプキンをいただいてまことに手際良く後始末をしてくれた。私も一緒に飛び散ったコーラを拭きながら「さっきの言葉はなんだ!ドジをしながら、今度は言葉のドジ!ほんとにドジなToshi!」
 なんて自分を責めつつも、彼らに対する感謝の気持ちと感動で胸が一杯になった。

 カウンターが元通りになり、気持ちを取り直しパンをかじろうとした時、さっきのカップルが、天使のような笑顔で「Here you are! Have a great day!」と言って、コーラを店からもらって私の目の前に置き、そのまま店を出て行った。窓越しに「Thank you!」と手を振って感謝の気持ちを伝えた私に、ふたりは同時にウィンクで答えてくれた。

 台無しのはずの早朝の1シーンが、最高のシャッターチャンスに生まれ変わった瞬間であった。
 心のゆとりを持って、自分ばかりか、周囲の人々にも光を投げかけてゆく、そんな若者を迎え入れたBanffの街並みを早朝のさわやかなそよ風が横切った。

 今、世界がこんなそよ風を待っている。

うなずける聖書からの言葉
「愛は寛容であり、愛は親切です。また人をねたみません。愛は自慢せず、高慢になりません。礼儀に反することをせず、自分の利益を求めず、怒らず、人のした悪を思わず、不正を喜ばずに真理を喜びます。 すべてをがまんし、すべてを信じ、すべてを期待し、すべてを耐え忍びます。」
(聖書の言葉:新約聖書コリント人への手紙第一13章4〜7節)


 

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