「明るく、元気で、のびのびと!!」(最終回)
 

 「どうした?顔色悪いよ!」上司(以下M氏)の質問に「実は、初めての重症のホームシックなんです。」と力なく訴えるのが精一杯の私。カナダ赴任の2日目にしての敗北宣言。
 その前日は今から約3年前の12月8日。日本を発つ時は、まさにその日「パールハーバー奇襲」の日。浮沈戦艦Toshiの悲惨な沈没発言にM氏も目が点になってしまった。その日、暗雲とピリピリと身が引き締まるような冷気が空港に降り立った私を出迎えた。対照的にカナダ滞在経験が豊富なM氏は、久しぶりの第二の故郷の空気を思いっきり胸に吸い込んで味わっている。宿泊先のキャンモアへ向かう道は、どす黒い厚雲がまるで訪問者をことごとく拒絶するかの如くにロッキーの山々を覆い隠し、前途の困難さを物語っているようでもあった。

 慣れない運転の末、やっとホームスティ先へ到着。そこではこれから本格的に始まる厳寒の冬将軍の話、故障車での車中凍死事件の話、極めつけは隣町Dead Man's Flat(確か“死者の街”とかいう意味)の怖いお話。口が商売の牧師さんだけに、身振り手振りでまるで凄惨な殺人現場にいたかのようなリアルな話ぶりに、私の中の観光地カナダのイメージが微塵もなく飛び散って行ってしまった。
 就寝タイムになり、客室のベッドをM氏と共有することになり私から切り出す。
 「あの〜。男同志で寝るのは苦手なんですが〜。」
 「あのネ!私だって苦手だわさ!」
 「でも、この際、贅沢は言っておれないし…。」
 旅の疲れか、いつの間にか背中合わせに寝入ってしまった。ふと気付くと、M氏がいない。近くのソファーに自主非難である。「ん、良い心掛けだよ!」と勝利を宣言したのもつかの間。まわりのあまりの静けさに騒音が子守唄だった私は寝つけず、おまけに就寝前に聞いた恐怖講談を思い出してしまった。「お、思いをかえねば…!」ウォークマンを闇の中でやっとの思いで捜し出し、音をキャッチしようと全神経を指に集中する。と、聞こえてきた。「おおっ!何というラッキー。日本語のスキヤキソングじゃないか!」…一語一語を噛み締めながら聞く…「♪涙がこぼれないように〜」「ひとりぼっちの夜♪」一転、寂しさが雪崩のように襲って来てしまった。何とアンラッキータイミング。海外渡航は何回も経験したが、こんな深刻なホームシックは初めてだった。不眠不休の朝、M氏に冒頭の質問をされてしまった次第である。M氏は付け加えた。「寝入った時、あんたは寝言で“I'm fine. Thank you and you?”を何十回も言ってたけど。もっと、リラックスしたほうが…。」とアドバイスして下さった。ここで骨を埋めるという覚悟で日本を出て来たプレッシャーがそうさせたものと思われた。

 さて、いろんな引継ぎが終わり、M氏の帰国する日がやってきた。空港で念を押された。
 「帰りに絶対、絶対二号線に乗ってはいけないよ。」
 「任せてくださいッ!来た道ですから。」
 M氏がゲートに消えた。開放感と緊張感が同時に私を包み込んで来た。帰り道「二号線、二号線。乗ってはいけない二号線…。」と自分に言い聞かせながら進む。「二号線、二号線。あッ、えッ?!ここは…二号線!」右端レーンを走っていて見事に迷い込んだ。おかげでかなり時間をロスしてしまった。この季節太陽の就寝時刻は早い。真っ暗闇の高速道路は永遠に続くトンネルのように思えた。何と、雪が追い討ちをかけてくる。手が緊張で力が入る。「キンチョウは夏に限るのダ!」などと、自分をリラックスさせようとJokeを投げかけるも、かえって寒さと緊張を増幅させた。「あッ!行き過ぎてしまったァ!」目的の出口を見間違えてしまった。「焦るな!こんな時は、刑事の如く犯行現場に戻るべし!」間違えた出口に戻り、反対方向へと進む。しかし、焦りからか目的の出口が見当たらない。「走り過ぎるとかえって危険だ!ここで、降りてみよう。」途中の小さな出口で降りてみた。「ここは、どこだろう?」横殴りの雪の合間に見え隠れする標識に目を凝らす。 
 “Dead Man's Flat”心臓が飛び出して逃げて行きそうな恐怖感。木枯らしの風音が効果音となって全身を奮わせる。その時、背後から「Hi!」いきなりの声に思わず条件反射的に「I...I'm fine. Thank you and you?」
 しかし、相手はどんな恐怖心をも解かしてしまうほどの笑顔を備えたポリスマンだった。天の使いのような存在は、見事に私を目的地に誘導してくれた。まさに「死者」の街で「使者」を得た貴重な体験であった。

 カナダに来て学んだモットー。「すべてのマイナスはプラスに!」そして、「明るく、元気で、のびのびと!」カナダはやはり、最高の想い出を作ってくれた。絶対I shall return!皆さんお元気で!そして、再会を期して!

『神を愛する人々、すなわち、神のご計画に従って召された人々のためには、神がすべてのことを働かせて益としてくださることを、私たちは知っています。』
(新約聖書ローマ人への手紙 8章28節)

1999年1月に”Toshiのカナダ生活便り”第一話が登場して以来約3年間。
バンフタイムズ人気コラムニスト村仲俊朗牧師がこの度、日本に戻られることになりました。
何度読んでも大笑い。聖書の言葉で反省…。反省…。また反省…。
どの話題にも笑いが耐えない、そこにToshiさんの人柄がうかがえます。
話しを聞けなくなるのは残念ですが、どこに行っても人々を笑いの渦に巻き込んでください。
本当に長い間ありがとうございました。Thank you

 

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